多汗症:その原因と東洋医学的アプローチ

東洋医学を知りたい
先生、『多汗』ってどういう意味ですか?ただ汗がたくさん出るってことですか?

東洋医学研究家
いい質問ですね。多汗は、ただ汗がたくさん出るというだけではありません。暑いところや運動をしたとき、あるいは汗をかきやすくする薬を飲んだとき以外に、必要以上に汗をかいてしまうことを指します。

東洋医学を知りたい
なるほど。じゃあ、暑い日にたくさん汗をかくのは多汗ではないんですね。

東洋医学研究家
その通りです。重要なのは、状況にそぐわない量の汗が出てしまうかどうかです。例えば、涼しい部屋でじっとしているのに、びっしょり汗をかいてしまうような場合が『多汗』と考えられます。
多汗とは。
東洋医学で使われる「多汗」という言葉について説明します。多汗とは、暑い場所にいる、激しい運動をする、あるいは汗を出す薬を飲んだといった原因がないのに、必要以上に汗をかいてしまうことを指します。
多汗症とは

多汗症とは、気温の変化や身体を動かした時といった分かりやすい理由がないのに、必要以上に汗をかいてしまう状態のことです。汗の量は日常生活に影響が出るほど多く、悩んでいる方も大勢います。汗は本来、体温を調節するという大切な役割を担っていますが、多汗症の場合、この機能が働き過ぎていると考えられます。
過剰な汗が出る場所は人によって異なり、手のひら、足の裏、脇の下など特定の部位に限られる場合もあれば、全身から汗が出る場合もあります。このような症状の違いは、多汗症の種類や原因によって様々です。例えば、会議や発表など、特定の場面で緊張したり不安を感じたりした時に出る汗は、精神性発汗と呼ばれ、自律神経のバランスが崩れていることが原因と考えられています。このタイプの多汗症は、手や足、脇の下といった特定の場所に集中して発汗することが多く、日常生活で不便を感じる場面も少なくありません。
一方、全身に汗が出る場合は、甲状腺機能亢進症などの他の病気が隠れている可能性もあるため、注意が必要です。甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、代謝が活発になり、体温が上昇しやすくなります。その結果、身体は体温を下げようとして大量の汗を出すのです。また、更年期障害によるホルモンバランスの変化や、一部の薬の副作用によって多汗症が引き起こされるケースもあります。
多汗症は見た目には分かりづらい症状ですが、日常生活に大きな支障をきたす可能性のある疾患です。必要以上に汗をかくことで、人と会うことや仕事、勉強に集中することが難しくなり、精神的な負担も大きくなってしまいます。もし多汗症でお悩みの方は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
| 種類 | 症状 | 原因 | 影響 |
|---|---|---|---|
| 精神性発汗 | 特定の場面(会議、発表など)で手や足、脇の下に集中して発汗 | 自律神経のバランスの崩れ、緊張、不安 | 日常生活での不便 |
| 全身性発汗 | 全身に汗が出る | 甲状腺機能亢進症などの病気、更年期障害、薬の副作用 | 日常生活への大きな支障 |
東洋医学における考え方

東洋医学では、汗をかくという体の働きは、単に体温調節のためだけにあるのではなく、体内の水分のバランスを整え、不要なものを体外へ排出する大切な役割を担っていると捉えます。いわゆる汗っかき、つまり多汗症は、この水分のバランスが崩れた状態、すなわち体全体の調和が乱れた状態として考えます。
東洋医学では「気・血・水」という3つの要素が体を巡り、互いに影響し合いながら健康を維持していると考えられています。多汗症は、この3つの要素、特に「水」の巡りが滞り、うまくコントロールできなくなっている状態と考えられています。体内に過剰に溜まった水分は行き場を失い、汗として体外へ排出されてしまうのです。
また、東洋医学では五臓六腑という考え方があり、特に「腎」は水分の代謝と深く関わっているとされます。「腎」は体内の水分バランスを調整する重要な役割を担っており、この「腎」の働きが弱まると、水分をうまく処理できず、多汗症の症状が現れると考えられています。まるで、ダムの放水機能がうまく働かず、水が溢れ出てしまうようなイメージです。
さらに、生命エネルギーである「気」も深く関わっています。「気」には体を温め、活力を与える働きがあります。この「気」が不足すると、体温調節機能が乱れ、わずかな温度変化でも過剰に汗をかきやすくなってしまうのです。
このように、東洋医学では多汗症を単なる汗の異常として捉えるのではなく、体全体のバランスの乱れ、そして「気・血・水」の不足や偏りから起こると考えています。そのため、多汗症の根本的な改善には、体質を見極め、全体の調和を取り戻すことが大切だと考えられています。

多汗症のタイプ

汗の悩みは、大きく分けて全身に出る場合と、体の一部に限られる場合の二種類に分けられます。全身に汗が出る場合は、全身性多汗症と呼ばれます。これは、体全体に過剰な汗が見られるもので、その背景には甲状腺の働きが活発になりすぎる病気や、糖の代謝に問題が生じる病気、更年期と呼ばれる女性ホルモンのバランスが変化する時期の症状などが隠れていることがあります。そのため、全身に汗をかきやすいと感じる方は、一度医療機関を受診し、これらの病気が隠れていないかを確認することが大切です。
一方、体の一部分にだけ汗が集中して出る場合は、局所性多汗症と呼ばれます。手のひら、足の裏、脇の下などが汗をかきやすい代表的な部位です。特に手のひらや足の裏に汗をかきやすい方は、物を掴んだり、歩いたりといった日常の動作に苦労することが多く、生活の質に大きな影響を与えます。また、脇の下に汗をかきやすい方は、服に汗染みができてしまうことを気に病み、精神的な負担を感じてしまう方も少なくありません。
局所性多汗症の原因としては、自律神経のバランスが崩れていることや、生まれつきの体質などが考えられます。また、精神的な負担や緊張感が強い時にも、症状が悪化することがあります。例えば、人前で話をする時や、重要な試験を受ける時などに、手のひらや脇に汗をかきやすくなるという経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
このように、多汗症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。自分自身の汗の症状をよく観察し、適切な方法で対処することが大切です。医療機関を受診すれば、汗を抑える薬を処方してもらったり、汗腺を切除する手術などの治療を受けることができます。また、日常生活では、ストレスを溜め込まないようにリラックスする時間を作ったり、汗をかきやすい部分を清潔に保つなど、工夫を凝らすことで症状を和らげることができます。
| 分類 | 症状 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 全身性多汗症 | 全身に過剰な汗 | 甲状腺機能亢進症、糖尿病、更年期障害など | 医療機関を受診 |
| 局所性多汗症 | 手足、脇など特定の部位に汗が集中 | 自律神経の乱れ、体質、精神的負担など | 医療機関を受診(薬物治療、手術)、ストレス軽減、清潔を保つ |
鍼灸治療によるアプローチ

東洋医学では、汗は体内の水分が体外へ排出される現象であり、「腎」や「肺」「脾」といった臓腑の働きと深く関わっていると考えられています。特に「腎」は体内の水分の代謝を調整する重要な役割を担っており、「腎」の働きが弱まると、過剰な発汗が生じやすくなります。
鍼灸治療は、こうした東洋医学の考え方に基づき、全身に点在するツボと呼ばれる特定の部位に鍼を刺したり、お灸で温熱刺激を与えることで、「気」「血」「水」の巡りを整え、臓腑の働きを調整し、体のバランスを整える治療法です。多汗症の場合、発汗を調整する「腎」の働きを高めるツボや、自律神経のバランスを整えるツボ、過剰な熱を冷ますツボなどが用いられます。
例えば、「復溜」や「陰谷」といったツボは「腎」の働きを強め、体内の水分代謝を正常化させる効果があるとされています。また、「合谷」や「内関」といったツボは自律神経のバランスを整え、精神的な緊張やストレスを和らげる効果が期待できます。精神性発汗に悩む方にも有効です。
鍼灸治療は、ツボを刺激することで、過剰な発汗を抑えるだけでなく、体質改善を促し、根本的な解決を目指すことができます。体の内側からバランスを整えることで、汗をかきやすい体質を改善し、健やかな状態へと導きます。
ただし、鍼灸治療の効果や施術回数は、症状の程度や個人差によって異なります。症状が重い場合や長期間続いている場合は、複数回の治療が必要となることもあります。また、体質や症状によっては鍼灸治療が適さない場合もあるため、施術を受ける際は、経験豊富な専門家によく相談することが大切です。
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 東洋医学における汗 | 体内の水分が体外へ排出される現象。腎、肺、脾の働きと関連し、特に腎は水分の代謝調整を担う。 |
| 鍼灸治療 | 気・血・水の巡りを整え、臓腑の働きを調整し、体のバランスを整える治療法。腎の働きを高めるツボ、自律神経を整えるツボ、過剰な熱を冷ますツボを用いる。 |
| ツボの例 |
|
| 鍼灸治療の効果 | 過剰な発汗を抑えるだけでなく、体質改善を促し、根本的な解決を目指す。 |
| 治療回数 | 症状の程度や個人差によって異なり、複数回の治療が必要な場合もある。 |
| 注意点 | 体質や症状によっては鍼灸治療が適さない場合もあるため、専門家への相談が必要。 |
漢方薬によるアプローチ

汗を多くかく症状に悩む方にとって、漢方薬は一つの選択肢となります。漢方薬は、自然の草や木、動物などから得られた生薬を複数組み合わせたものです。西洋医学とは異なる考え方に基づき、体全体の調子を整え、症状が出ている根本原因を取り除くことを目指します。多汗症においても、体質や症状に合わせて、様々な漢方薬が用いられます。
例えば、精神的な不安や緊張から汗をかきやすい方には、「桂枝加竜骨牡蛎湯」が有効とされています。この漢方薬は、落ち着きを取り戻し、過剰な汗を抑える働きかけをします。また、体力がなく、疲れやすい方が汗をかきやすい場合、「補中益気湯」が用いられます。これは、体の元気を取り戻し、汗の出方を整える効果が期待できます。さらに、胃腸が弱く、汗をかきやすい方には、「香蘇散」が適している場合があります。これは、胃腸の働きを助け、汗のバランスを整える作用があります。
漢方薬は、一人ひとりの体質に合わせたオーダーメイドの治療と言えます。じっくりと体質から改善していくため、根本的な解決を目指すことができます。しかし、漢方薬の効果は個人差があり、体質に合わない場合もあります。自己判断で服用せず、必ず漢方医や専門家の指導を受けることが大切です。また、西洋医学の治療と併用する場合もあるので、医師との相談も欠かせません。漢方薬は、多汗症の根本的な改善に役立つ可能性を秘めていますが、専門家の適切なアドバイスのもと、服用することが重要です。
| 症状・体質 | 漢方薬 | 効能 |
|---|---|---|
| 精神的な不安や緊張から汗をかきやすい | 桂枝加竜骨牡蛎湯 | 落ち着きを取り戻し、過剰な汗を抑える |
| 体力がなく、疲れやすい | 補中益気湯 | 体の元気を取り戻し、汗の出方を整える |
| 胃腸が弱く、汗をかきやすい | 香蘇散 | 胃腸の働きを助け、汗のバランスを整える |
日常生活での注意点

汗のかきすぎに悩む方にとって、毎日の暮らし方を見直すことは症状を和らげる上で大切です。まず、食生活では刺激の強いものやカフェインを控えるようにしましょう。香辛料を多く使った料理や、コーヒー、紅茶、緑茶などカフェインを多く含む飲み物は、自律神経という体の調子を整える神経を刺激して、汗をかきやすくする働きがあります。結果として、汗のかきすぎをさらに悪化させてしまう可能性があります。バランスの良い食事を心がけ、野菜や果物、穀物などを積極的に摂り入れましょう。
次に、十分な睡眠を確保することも重要です。睡眠時間が不足すると、自律神経のバランスが乱れ、汗の調節機能がうまく働かなくなってしまうことがあります。質の高い睡眠を心がけ、毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい生活リズムを保つようにしましょう。
さらに、適度な運動も汗のかきすぎの改善に役立ちます。軽い運動は、心身の緊張をほぐし、血行を良くする効果があります。また、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。散歩や軽い体操、ゆったりとしたヨガなどは、手軽に取り入れられる運動です。ただし、激しい運動は逆に汗をかく量を増やしてしまうため、避けるようにしましょう。運動後は、こまめに水分を摂り、体温を適切に調節することも大切です。
ストレスをため込まないことも大切です。ストレスは自律神経のバランスを崩し、多汗症を悪化させる要因となります。リラックスできる時間を作ったり、趣味に没頭したりするなど、ストレスを上手に解消する方法を見つけましょう。また、衣服は吸湿性や通気性の良い素材を選び、重ね着をして体温調節しやすいように工夫することも効果的です。
| 対策 | 詳細 |
|---|---|
| 食生活 | 刺激の強いものやカフェインを控える。バランスの良い食事を心がけ、野菜や果物、穀物などを積極的に摂り入れる。 |
| 睡眠 | 十分な睡眠を確保する。質の高い睡眠を心がけ、毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい生活リズムを保つ。 |
| 運動 | 適度な運動をする。軽い運動は、心身の緊張をほぐし、血行を良くする効果がある。激しい運動は避ける。運動後は、こまめに水分を摂り、体温を適切に調節する。 |
| ストレス | ストレスをため込まない。リラックスできる時間を作ったり、趣味に没頭したりするなど、ストレスを上手に解消する方法を見つける。 |
| 衣服 | 吸湿性や通気性の良い素材を選び、重ね着をして体温調節しやすいように工夫する。 |
