
潜陽:鎮める肝の力
潜陽とは、東洋医学の治療法の一つで、高ぶった肝の気を鎮めることを目的としています。人間の体には「気」というエネルギーが流れており、感情や精神活動と密接に関わる「肝」の気が過剰に上昇した状態を「肝陽上亢(かんようじょうこう)」といいます。この肝陽上亢は、まるで煮えたぎった湯のように気が上へ上へと昇りつめ、様々な不調を引き起こします。例えば、激しいめまいや頭痛、落ち着かない気持ち、怒りっぽくなる、夜眠れない、顔が赤くなる、目が充血するといった症状が現れます。このような不快な症状を抑え、心身を穏やかな状態へと導くのが潜陽という治療法です。
潜陽で用いるのは、鎮静させる力を持つとされる重鉱物や貝殻類などの生薬です。これらの生薬は、自然界において比重が大きく下に沈む性質を持っているため、高ぶった陽気を鎮め、下に降ろす効果があるとされています。まるで大地に根を張るように、過剰に上昇している気を鎮めるのです。竜骨(りゅうこつ)や牡蠣(ぼれい)といった海の底で静かに眠っていたもの、磁石(じしゃく)のように大地にしっかりとくっついているものなどが用いられます。これらは比重が大きいだけでなく、冷やす性質も持っているため、熱くなった気を冷まし静める効果も期待できます。
このように潜陽は、自然界の摂理に倣い、過剰に上昇しているものを自然な形で鎮めるという東洋医学の考え方がよく表れた治療法と言えるでしょう。自然界では、木が空高く伸びすぎれば倒れてしまいます。同様に、人の体の中でもバランスが大切で、潜陽はこのバランスを取り戻すための知恵なのです。