肝の気滞り:肝鬱とは?
東洋医学を知りたい
先生、『肝鬱』って言葉がよくわからないのですが、教えていただけますか?
東洋医学研究家
はい。『肝鬱』とは、東洋医学で、精神的なストレスや感情の抑圧によって、体の中の『気』の流れが滞ってしまう状態のことだよ。西洋医学の『肝臓』の働きとは少し違う意味合いがあるんだ。
東洋医学を知りたい
体の『気』の流れが滞るとどうなるんですか?
東洋医学研究家
イライラしやすくなったり、気分が落ち込んだり、お腹が張ったり、肩こりや頭痛がしたり…様々な症状が現れることがあるよ。ちょうど、水の流れが悪くなると澱んでしまうようにね。
肝鬱とは。
東洋医学には『肝鬱』という言葉があります。これは、体内のエネルギーの流れをスムーズにする働きがうまくいかず、肝臓にエネルギーが滞ってしまう状態を指します。西洋医学では『liver depression』とも呼ばれています。
肝鬱の全体像
東洋医学では、肝は体の一部品としてだけでなく、生命活動を支える大切なエネルギーである「気」の流れを調整する重要な役割を担っています。この気のめぐりが滞ってしまう状態を「肝鬱(かんうつ)」と言います。
肝鬱は、精神的な重圧や感情を抑え込むこと、不規則な暮らし方、食事の偏りなど、様々な原因によって起こると考えられています。肝の働きである疏泄(そせつ)は、気のめぐりを滑らかにし、心の状態を安定させたり、食べ物の消化を助けたり、血の流れを良くしたりと、体全体の働きを正常に保つ上で欠かせません。この疏泄のはたらきが妨げられることが肝鬱の根本原因であり、滞った気は心身に様々な影響を及ぼします。
肝鬱の状態が続くと、体全体の気のめぐりが悪くなり、様々な不調が現れる可能性があります。例えば、イライラしやすくなったり、気分が落ち込んだり、怒りっぽくなったりといった心の不調が現れやすいです。また、体に痛みを感じたり、お腹が張ったり、便秘や下痢を繰り返したりといった体の不調も起こりやすくなります。女性の場合は、生理不順や生理痛がひどくなることもあります。
現代社会はストレスが多く、肝鬱の状態になりやすいと言えるでしょう。肝はストレスに弱く、過剰なストレスは肝の疏泄機能を低下させ、気のめぐりを滞らせるからです。ストレスをため込まないよう、自分に合った方法で発散することが重要です。また、規則正しい生活を送り、栄養バランスの良い食事を摂ることも大切です。さらに、適度な運動も気のめぐりを良くする効果があります。これらの生活習慣を改善することで、肝鬱の状態を予防・改善し、心身の健康を保つことができるでしょう。
主な症状
肝の働きが滞り、気がスムーズに流れなくなる状態、いわゆる肝鬱。この肝鬱になると、心と体、両方に様々な不調が現れます。精神的には、ちょっとしたことでイライラしたり、気分の浮き沈みが激しくなったり、何事にもやる気が起きず憂鬱な気分に陥ったりします。まるで心に影がかかったように、気持ちが晴れず、落ち込みやすくなるのです。
こうした精神的な症状だけでなく、身体にも様々な影響を及ぼします。例えば、頭が重く痛んだり、ふらふらとめまいがしたり、肩や首が凝り固まってしまうといった症状が現れます。また、女性の場合、生理の周期が乱れたり、便秘がちになったりすることもあります。さらに、胃腸の働きも弱まり、食欲がなくなったり、食べても消化不良を起こしやすくなります。このように、肝鬱の症状は多岐にわたり、人によって現れ方も様々です。複数の症状が複雑に絡み合い、慢性的な不調として悩まされる場合も少なくありません。
肝鬱に特徴的な症状として、「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」と呼ばれるものがあります。これは、胸や脇、肋骨の下あたりに、張ったような痛みや締め付けられるような不快感を感じる症状です。まるで息苦しいように感じたり、深い呼吸がしづらくなったりすることもあります。また、知らず知らずのうちにため息を多くついていたり、のどに何かが詰まっているような異物感を訴える方もいます。これらは、気が滞っているサインと考えられています。
さらに、肝には血液を蓄える働きもあるため、肝鬱の状態が続くと血流も滞りがちになります。すると、栄養や酸素が体に行き渡りにくくなり、全身の機能が低下、さらに様々な不調を招く可能性があります。肝鬱は、決して軽く見てはいけない体のサインなのです。
原因と要因
心の滞りが体に不調をきたす「肝鬱」という状態は、東洋医学では気の巡りが滞っていると考えられています。この気の滞りは、様々な要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。主な原因としてまず挙げられるのは、過度な精神的な負担です。日々の暮らしの中で感じる、怒りや不満、悲しみ、心配といった感情をうまく表に出せず、長い間心に閉じ込めてしまうと、気の巡りが悪くなり、肝鬱になりやすいと考えられています。
こうした感情の乱れに加えて、生活の乱れも肝鬱を招く大きな要因となります。夜更かしや睡眠不足、食事の時間が不規則、栄養バランスの偏りなどは、体全体の調子を崩し、気の巡りを滞らせる原因となります。特に、脂っこい食事や過度な飲酒は肝に負担をかけ、気の巡りを妨げると考えられていますので、注意が必要です。
現代社会はストレスが多く、時間に追われる生活になりがちです。そのため、自覚がないまま肝鬱の状態になっている方も少なくありません。肝鬱を予防し、改善するためには、自分自身の生活習慣を見直し、ストレスとどう向き合うかを考えることが大切です。規則正しい生活を送り、バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を取り入れることで、気の巡りを整え、肝鬱を予防することができます。
また、女性は月経周期に伴うホルモンバランスの変化によって、肝鬱の症状が強く出ることがあります。月経前症候群(PMS)や更年期障害といった時期には、心身の変化に意識を向け、より一層のケアが必要です。さらに、季節の変わり目や、住まいや仕事といった環境の変化も、心身に負担がかかりやすく、肝鬱の症状を引き起こす可能性があります。周囲の環境変化にも気を配り、心身の状態に合わせた過ごし方を心がけることが大切です。
東洋医学的アプローチ
東洋医学では、心身の不調は体内の気の滞りやアンバランスによって起こると考えます。肝鬱とは、東洋医学独自の概念で、精神的なストレスや感情の抑圧が原因で、肝の働きが順調にいかなくなる状態を指します。この状態が続くと、イライラしやすくなったり、気分が落ち込んだり、のぼせや頭痛、肩こびり、生理不順など、様々な症状が現れます。
肝鬱の治療においては、滞った気をスムーズに巡らせ、肝の機能を本来の状態に戻すことが大切です。そのために、漢方薬、鍼灸治療、ツボ療法、食養生など、様々な方法を組み合わせて用います。
漢方薬では、一人ひとりの体質や症状に合わせて、気を巡らせる作用のある生薬や、精神を安定させる作用のある生薬などを組み合わせて処方します。例えば、疏肝解鬱(そかんかいうつ)作用のある柴胡(さいこ)や香附子(こうぶし)、精神を安定させる作用のある薄荷(はっか)や茯苓(ぶくりょう)などがよく用いられます。
鍼灸治療とツボ療法は、体にあるツボを刺激することで、経絡と呼ばれる気の流れる道筋を整え、気の滞りを解消します。肝鬱に効果のあるツボとしては、太衝(たいしょう)や期門(きもん)などが挙げられます。これらのツボを刺激することで、肝の働きを助け、症状の改善を促します。
食養生も肝鬱の改善には欠かせません。肝の働きを助ける食材や、気の巡りを良くする食材を積極的に摂ることで、体質改善を目指します。例えば、柑橘系の果物に含まれる酸味や香りは、気の巡りを促す効果があります。また、香味野菜の香り成分や、緑黄色野菜に含まれるビタミン、ミネラルは、肝の働きをサポートします。その他、穏やかな気持ちで食事をし、よく噛んで食べることも大切です。東洋医学では、心と体は密接に繋がっていると考えます。日々の生活の中で、精神的なストレスを溜め込まないよう、自分に合った方法でリラックスする時間を持つことも、肝鬱の改善に繋がります。
原因 | 症状 | 治療法 | 具体例 |
---|---|---|---|
精神的ストレス、感情の抑圧 | イライラ、気分の落ち込み、のぼせ、頭痛、肩こり、生理不順など | 漢方薬 | 疏肝解鬱作用のある柴胡や香附子、精神を安定させる薄荷や茯苓などを体質や症状に合わせて処方 |
鍼灸治療、ツボ療法 | 太衝、期門などのツボを刺激し、経絡を整え気の滞りを解消 | ||
食養生 | 肝の働きを助ける食材(柑橘類、香味野菜、緑黄色野菜など)や気の巡りを良くする食材を摂取。穏やかな気持ちでよく噛んで食べる。 | ||
生活習慣 | 精神的なストレスを溜め込まない。自分に合った方法でリラックスする時間を持つ。 |
日常生活での対策
心身の不調を招く「肝鬱(かんうつ)」は、東洋医学において肝の働きが滞っている状態を指します。肝の働きがスムーズでなくなると、気の流れが停滞し、様々な症状が現れます。この状態を改善し、予防するためには、毎日の暮らしの中でできる工夫が大切です。
まず、規則正しい生活習慣を心掛けることが重要です。睡眠は、体の疲れを癒すだけでなく、心の疲れを癒す効果も期待できます。肝は夜間に活発に働くため、質の良い睡眠を十分に取ることで、肝の機能を正常に保ち、気の流れをスムーズにします。毎日同じ時間に寝起きし、睡眠時間をしっかりと確保しましょう。
次に、体を動かす習慣を取り入れましょう。軽い運動は、気の巡りを促し、滞りを解消する効果があります。心地よく続けられる運動を選び、習慣にしましょう。散歩やゆったりとした体操、体の柔軟性を高める運動などがおすすめです。激しい運動は逆に体に負担をかける場合があるので、無理のない範囲で行いましょう。
また、ストレスをため込まないことも肝心です。ストレスは、気の流れを阻害する大きな要因となります。好きなことや夢中になれる時間を持つ、親しい人と過ごす、自然の中でゆったりと過ごすなど、自分に合った方法でストレスを発散しましょう。香りを使った療法や、薬草を使った飲み物なども、心を落ち着かせ、肝鬱の改善に役立つことがあります。
バランスの良い食事も欠かせません。食べ過ぎや飲み過ぎは肝に負担をかけ、気の流れを乱す原因となります。栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることで、肝の働きを助け、健康な状態を保ちましょう。