温経止血薬:血の巡りを温め整える
東洋医学を知りたい
先生、『温経止血薬』ってどういう意味ですか?漢字はなんとなくわかるんですけど、実際の効き目がイメージできません。
東洋医学研究家
そうですね。『温経止血薬』は、文字通り、経絡を温めることで出血を止める薬のことです。冷えによって経絡の働きが滞り、出血が続いている場合に用います。
東洋医学を知りたい
経絡の働きが滞ると、どうして出血が続くんですか?
東洋医学研究家
東洋医学では、経絡は体内のエネルギーの通り道と考えられています。冷えによってこの経絡の流れが滞ると、血行不良を起こし、出血が止まりにくくなると考えられているのです。温経止血薬は、経絡を温めて血行を良くすることで、出血を止める効果があるとされています。
溫經止血藥とは。
体を温めて血を止める漢方薬について
温経止血薬とは
体を温めながら、血を止める働きを持つ薬を温経止血薬と言います。これは東洋医学で使われる薬です。東洋医学では、体の中には「経絡(けいらく)」と呼ばれる道があり、その道を血液が通って全身に栄養を届けると考えられています。この経絡の流れが滞ったり、血液が足りなくなったりすると体に不調が現れることがあります。
例えば、血液が不足すると、月経の量が少なくなったり、月経が遅れて来たり、肌が乾燥したり、爪がもろくなったり、立ちくらみがしたりといった症状が現れやすくなります。また、体が冷えて血液の流れが悪くなると、月経の際に強い痛みを感じたり、下腹部に痛みを感じたり、血の塊が出たりといった症状が現れることがあります。
このような、血液の不足や冷えによって起こる症状を良くするために、温経止血薬は用いられます。温経止血薬は、単に血液を補うだけでなく、経絡を温めることで血液の流れを良くし、栄養を体の隅々まで届ける効果があります。冷えによって起こる出血や、血行不良から来る痛みにも効果があります。
例えば、月経不順や生理痛、産後の出血、下腹部の痛み、手足の冷えなどに用いられます。体質や症状に合わせて漢方薬が選ばれますが、代表的なものとして、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、益母草(ヤクモソウ)などがあります。これらの生薬は、体を温めて血行を良くする作用があり、月経の不調や産後の回復を助ける効果が期待できます。
ただし、温経止血薬はあくまでも症状を和らげるための対症療法であり、根本的な原因を解決するものではありません。もしも体に不調がある場合は、自己判断で薬を服用するのではなく、必ず医師や薬剤師に相談することが大切です。症状や体質に合った適切な薬を選び、服用方法や服用期間などを正しく指導してもらうようにしましょう。
温経止血薬 | 体を温めながら血を止める薬 |
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効能 |
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症状例 |
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代表的な生薬 |
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注意点 | 対症療法であり、根本的な原因を解決するものではないため、医師や薬剤師に相談が必要 |
どんな時に使うのか
温経止血薬は、女性の様々な不調を和らげる目的で使われます。特に、月経にまつわるトラブルによく用いられます。例えば、月経が遅れたり、経血の量が少なかったり、色が薄かったりする場合、あるいは血の塊が混じる場合などに効果を発揮します。
また、月経に伴う痛みにも効果的です。生理痛や下腹部痛、腰痛といった、月経周期に現れる痛みを和らげ、楽にしてくれます。
さらに、産後の出血がなかなか止まらない時にも、温経止血薬は役立ちます。産後の回復を促し、体力の回復を助けます。
加えて、更年期を迎えた女性によく見られる症状にも効果があります。のぼせやほてり、急な発汗といった更年期症状を和らげ、穏やかに過ごせるようサポートします。
冷えからくる出血傾向がある場合や、血行が悪くて痛みやしびれがある場合にも、温経止血薬は用いられます。体を温め、血行を良くすることで、これらの症状を改善します。
体質的に虚弱で冷えやすい方や、貧血気味の方にも適しています。こうした方の体質改善を助け、健康増進を促します。
ただし、症状や体質によって最適な薬や組み合わせは異なります。自己判断で使うのは危険ですので、必ず専門家に相談し、適切な指導を受けて下さい。
代表的な生薬
温経止血薬に使われるよく知られた生薬についてご紹介します。温経止血薬とは、体を温め、血の流れを整え、出血を止める効果を持つ薬のことを指します。代表的な生薬としては、艾葉(ガイヨウ)、阿膠(アキョウ)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、乾姜(カンキョウ)などが挙げられます。それぞれの生薬の働きについて詳しく見ていきましょう。
まず、艾葉は蓬の葉の部分を用います。蓬は道端などでもよく見かける植物ですが、その葉には体を温め、血の流れを良くする働きがあります。冷え性や生理痛、生理不順などに効果があるとされています。次に、阿膠はロバの皮を煮詰めて乾燥させたものです。血を補う作用が強く、貧血や出血が続く場合などに用いられます。高価な生薬として知られています。そして、当帰はセリ科の植物の根を用います。血を補い、痛みを和らげる作用があり、生理痛や産後の不調などに用いられます。婦人科系の疾患によく使われる生薬です。さらに、川芎もセリ科の植物の根茎を用います。血行を促進し、痛みを和らげる作用があり、頭痛やめまい、生理痛などに効果があるとされています。当帰と併用されることも多い生薬です。最後にご紹介する乾姜は、生姜の根茎を乾燥させたものです。体を温め、胃腸の働きを良くする作用があります。冷えからくる腹痛や下痢、嘔吐などに用いられます。
これらの生薬は、単独で使用されることもありますが、多くの場合、複数の生薬を組み合わせて用いられます。それぞれの生薬の持つ性質を活かし、組み合わせることで、より高い効果が期待できます。例えば、艾葉と乾姜を組み合わせることで、冷えを改善する効果を高めることができますし、阿膠と当帰を組み合わせることで、血を補う効果を高めることができます。このように、複数の生薬を組み合わせ、それぞれの薬の力を引き出すことで、様々な症状に対応できる、奥深い処方が可能となるのです。
生薬名 | 効能 | 使用部位 | その他 |
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艾葉(ガイヨウ) | 体を温め、血の流れを良くする | 蓬の葉 | 冷え性や生理痛、生理不順に効果 |
阿膠(アキョウ) | 血を補う | ロバの皮 | 貧血や出血、高価 |
当帰(トウキ) | 血を補い、痛みを和らげる | セリ科植物の根 | 生理痛や産後の不調、婦人科系疾患 |
川芎(センキュウ) | 血行を促進し、痛みを和らげる | セリ科植物の根茎 | 頭痛やめまい、生理痛、当帰と併用 |
乾姜(カンキョウ) | 体を温め、胃腸の働きを良くする | 生姜の根茎 | 冷えからくる腹痛や下痢、嘔吐 |
作用機序
温経止血薬は、その名の通り身体を温めながら出血を止める薬です。大きく分けて二つの側面から身体に働きかけます。一つは身体を温める作用、もう一つは出血を止める作用です。
まず温める作用についてですが、身体を温めることで血の巡りを良くし、冷えからくる不調を和らげます。乾姜(カンキョウ)や艾葉(ガイヨウ)といった温める性質を持つ生薬が、この温める作用の主役です。これらの生薬は、まるで冷え切った部屋に温風を吹き込むように、身体の内側からじんわりと温めていきます。冷えによって滞っていた血の流れが良くなると、子宮や卵巣といった大切な器官にも栄養がしっかり届くようになります。すると、生理痛や下腹部痛といった冷えが原因の痛みも和らぎ、健やかな状態へと近づいていきます。さらに、血の巡りが良くなることで、月経周期が整い、妊娠しやすい身体づくりにも繋がると考えられています。
次に、出血を止める作用について説明します。阿膠(アキョウ)や当帰(トウキ)といった血を補う生薬や、地楡(チユ)といった出血を止める生薬が、この作用の中心です。これらの生薬は、出血を抑えるだけでなく、失われた血を補う働きも持ちます。例えるなら、堤防が決壊した時に、まず決壊箇所を塞ぎ、次に失われた水を補給するようなものです。これにより、貧血や体力の低下といった出血による不調を防ぎます。
このように、温経止血薬は温める作用と止める作用の二つの働きによって、出血をしっかりと止めながら、同時に身体の冷えを取り除き、健康な状態へと導くのです。まさに身体の内側から健やかさを育む薬と言えるでしょう。
注意点と副作用
温経止血薬は、多くの場合安全に使えるとされていますが、体質や病状によっては思わぬ反応が現れることもあります。そのため、服用にあたっては幾つかの点に注意が必要です。
まず、この薬には体を温める性質を持つ生薬が多く使われています。そのため、もともと体が熱っぽくなりやすい人や、炎症が起きている人は、顔がのぼせたり、心臓がドキドキしたり、口が渇いたりすることがあります。また、胃腸が丈夫でない人は、吐き気や下痢といった症状が現れる可能性もあります。
妊娠中の方は、お腹の赤ちゃんへの影響が心配されるため、服用を控えましょう。どうしても必要な場合は、専門家に相談し、慎重に判断する必要があります。授乳中の方も、薬の成分が母乳に移行する可能性があるため、注意が必要です。医師や薬剤師に相談し、指示に従って下さい。
さらに、他の薬と一緒に飲む場合、相互作用が起こる可能性も否定できません。普段から何か薬を飲んでいる場合は、必ず医師や薬剤師にその薬の名前を伝え、飲み合わせに問題がないか確認しましょう。自己判断で服用することは大変危険です。必ず専門家の指導のもと、正しく服用することが大切です。
温経止血薬は、様々な婦人科系の症状に効果があるとされていますが、体に合わないと様々な症状が現れる可能性があります。少しでも体に異変を感じたら、すぐに服用を中止し、医師または薬剤師に相談しましょう。健康のためにも、専門家の指示に従い、安全に服用することを心がけてください。
服用時の注意点 | 症状・リスク | 対象者 |
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体質に合わない | 様々な症状が現れる可能性 | 服用者全般 |
体が温まりやすい、炎症が起きている | のぼせ、動悸、口渇、吐き気、下痢 | 熱症の人、炎症のある人、胃腸虚弱の人 |
妊娠中 | お腹の赤ちゃんへの影響 | 妊婦 |
授乳中 | 薬の成分が母乳に移行する可能性 | 授乳中の母親 |
他の薬との併用 | 薬物相互作用 | 併用薬を服用している人 |