総按:三本の指で診る脈診の奥深さ

総按:三本の指で診る脈診の奥深さ

東洋医学を知りたい

先生、『總按』ってどういう意味ですか?漢字からなんとなく全体を診るみたいな感じでしょうか?

東洋医学研究家

そうですね、全体を診るという解釈は間違っていません。東洋医学では脈を診るときに、手首の橈骨動脈に人差し指、中指、薬指の3本を当てて脈を診る方法を『總按(そうあん)』と言います。3本の指で同時に3つの脈を診ることで、全身の状態を大まかに把握するんですよ。

東洋医学を知りたい

三本の指で同時に診るんですね。ということは、それぞれの指で診る場所が違うんですか?

東洋医学研究家

その通りです。人差し指を置く場所を寸、中指を置く場所を関、薬指を置く場所を尺と呼び、それぞれ異なる臓腑の気血の状態を反映していると考えられています。寸・関・尺の脈を同時に診ることで、全身のバランスや病状の全体像を捉えることができるのです。

總按とは。

東洋医学で使われている『総按(そうあん)』という言葉について説明します。総按とは、3本の指を使って同時に3か所の脈をとる方法のことです。

総按とは

総按とは

総按(そうあん)とは、東洋医学における脈診法のひとつで、患者さんの手首にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)に、医師が人差し指、中指、薬指の三本の指を同時に当てて脈を診る方法です。まるで水面に小石を投げた時に波紋が広がるように、橈骨動脈の拍動は全身の状態を映し出す鏡と考えられています。

橈骨動脈に触れる際、皮膚に近い部分を寸(すん)、やや深い部分を関(かん)、さらに深い部分を尺(しゃく)と呼び、それぞれ対応する臓腑(ぞうふ)が異なるとされています。手首側から肘側に向かって、寸は心臓や肺といった上焦(じょうしょう)、関は脾臓や胃といった中焦(ちゅうしょう)、尺は腎臓や肝臓といった下焦(げしょう)に対応します。上焦は霧のように軽く、中焦は流れる雲のように滑らかで、下焦は大地のようにどっしりとした脈を呈するとされます。

総按では、これら三つの部位の脈、すなわち寸関尺の脈を同時に感じ取ることが重要です。それぞれの脈の強さ、速さ、リズム、滑らかさなどを総合的に判断することで、臓腑全体のバランスや体の状態、病気の有無やその程度を捉えることができます。

例えば、ある人が寸の脈が強く速く、関の脈が弱く、尺の脈が滑らかであれば、心臓や肺に過剰な熱があり、脾臓や胃の働きが弱く、腎臓や肝臓は比較的落ち着いているといった具合に判断できます。

この総按という方法は、指先に伝わる非常に繊細な感覚を頼りに診断を行うため、熟練した医師の高度な技術と長年の経験が必要です。まるで全身をめぐる「気」の流れを指先で感じ取るように、脈診を行うには、たゆまぬ鍛錬が必要不可欠です。

部位 深さ 対応臓腑(焦) 理想的な脈状
浅い 心臓、肺(上焦) 霧のように軽い
やや深い 脾臓、胃(中焦) 流れる雲のように滑らか
深い 腎臓、肝臓(下焦) 大地のようにどっしり

三部診脈の意義

三部診脈の意義

手首の橈骨動脈に触れ、脈を診ることは東洋医学の診察において欠かせないものです。これを脈診と言いますが、脈診の中でも特に重要なのが三部診脈です。三部診脈とは、橈骨動脈を寸口・関上・尺中の三つの部位に分けて脈を診ることで、全身の状態を把握する診断方法です。それぞれの部位は、体の異なる部分に対応しており、寸口は体の上部、関上は中部、尺中は下部に関連しています。

三部診脈の意義は、単に各部の脈を診るだけでなく、三つの部位の脈の相互関係を診ることにあります。例えば、寸口の脈が強く、尺中の脈が弱い場合は、体の上部に熱がこもり、下部が弱っている状態を示唆します。これは、まるでかまどに火が強く燃え上がり、下の水が不足しているような状態です。逆に、寸口の脈が弱く、尺中の脈が強い場合は、上部の気が不足し、下部に冷えがあると考えられます。これは、かまどの火が弱く、下の水が冷えているような状態です。

また、関上の脈は消化器系の状態を反映します。関上の脈が滑らかで力強い場合は、消化器系がしっかりと働いていると考えられます。反対に、関上の脈が弱かったり、不規則であったりする場合は、消化器系の不調が疑われます。このように、三部の脈を比較することで、臓腑(内臓)同士のバランスやエネルギーの流れをより正確に把握し、病気の状態を診断したり、治療の方針を決めるのに役立てることができます。東洋医学では、身体を一つの繋がった仕組みとして捉え、部分的な症状だけでなく、全体の調和を重視します。三部診脈は、この考え方に基づき、身体全体のバランスを診るための重要な診断方法と言えるでしょう。

部位 対応する体の部位 脈の状態と解釈 関連する臓腑/症状
寸口 上部
  • 強い:上部に熱がこもる
  • 弱い:気が不足している
  • 熱証
  • 気虚
関上 中部
  • 滑らかで力強い:消化器系が正常に機能
  • 弱かったり不規則:消化器系の不調
消化器系
尺中 下部
  • 強い:冷えがある
  • 弱い:弱っている
  • 冷え
  • 虚弱

総按の実際

総按の実際

診察の方法の一つに、脈を診る方法があります。これは、手首の動脈に触れて、流れや強さ、速さなどを診ることで、体の状態を判断するものです。患者さんをリラックスさせることが大切なので、静かな部屋でゆったりとした気持ちで受けてもらうようにします。

患者さんには手のひらを上に向けて、肘を軽く曲げた姿勢で座ってもらいます。診察する側は、人差し指、中指、薬指の三本の指を、手首の親指側にある橈骨動脈という血管に軽く当てます。指の腹を使って、力を入れすぎないように、脈の動きを感じ取ります。この時、三本の指に均等に力がかかるように注意します。

脈を診る時間は、少なくとも一呼吸、息を吸って吐く間の時間をかけて行います。慌てずに、脈の微妙な変化を感じ取ることが重要です。脈の速さやリズム、強さ、滑らかさなど、様々な要素に注意を払います。例えば、脈が速ければ熱があると考えられますし、脈が遅ければ体が冷えていると考えられます。また、脈が力強い場合は元気があると考えられ、脈が弱々しい場合は体力が落ちていると考えられます。

脈の状態は、時間帯や季節、患者さんの年齢や体質によっても変化します。朝は脈が比較的落ち着いており、夜は活動したため脈が速くなる傾向があります。また、夏は脈が速く、冬は脈が遅くなる傾向があります。さらに、年齢を重ねると脈は遅くなる傾向があり、体質によっても脈の状態は異なります。これらの要素を考慮に入れて、総合的に判断する必要があります。

脈を診るだけでは病気を特定することはできません。脈を診る方法は、あくまでも診察方法の一つであり、他の診察方法と組み合わせて行うことで、より正確な診断に繋がります。患者さんとの問診や、舌の状態を診る舌診、お腹の状態を診る腹診なども合わせて行い、体の状態を総合的に判断します。これらの情報を総合することで、より的確な治療方針を立てることができます。

項目 詳細
目的 手首の動脈に触れて、流れや強さ、速さなどを診ることで体の状態を判断する
患者さんの姿勢 手のひらを上に向けて、肘を軽く曲げた姿勢で座る
診察方法 人差し指、中指、薬指の三本の指を、手首の橈骨動脈に軽く当てる
診察時の注意点
  • 力を入れすぎない
  • 三本の指に均等に力をかける
  • 少なくとも一呼吸の時間をかける
  • 患者さんをリラックスさせる
観察項目 速さ、リズム、強さ、滑らかさなど
脈の状態の変化要因 時間帯、季節、年齢、体質
診断 脈診だけでは病気を特定することはできない。他の診察方法と組み合わせて総合的に判断する必要がある

練習と経験の積み重ね

練習と経験の積み重ね

東洋医学の診断法の中でも、脈診は特に奥深い技術です。熟練した医師の指先は、まるで精密な計測器のように、僅かな脈拍の強弱、速さ、リズムの変化を捉えます。まるで水面に広がる波紋を読むように、全身を巡る気血の流れや臓腑の状態を理解し、病の根本原因を探るのです。しかし、この卓越した技術は、容易に習得できるものではありません。長年の鍛錬と豊富な経験の積み重ねがあってこそ、初めて会得できるのです。

脈診の学びは、まず自身の脈を触れることから始まります。健康な時の脈、疲れた時の脈、喜怒哀楽を感じた時の脈…様々な状況下で自身の脈を丁寧に診ることで、脈拍の微妙な変化を体に刻み込んでいきます。自分の体で脈の変化を学ぶことで、他者の脈を診る際の基準となるのです。そして、師匠や先輩医師の指導の下、数多くの症例に触れ、様々な脈を診る経験を積むことが重要です。師の指先に伝わる感覚、脈診の極意を間近で感じながら、脈診の技術を深めていきます。書物から得られる知識だけでは、真の理解には到達しません。患者一人ひとりの脈と真摯に向き合い、その背後にある生命の響きを感じ取ることが、脈診を極める上で不可欠です。脈拍は、単なる心臓の鼓動ではなく、全身の状態を映し出す鏡です。その奥深いメッセージを読み解くためには、生涯にわたる研鑽が必要となるでしょう。

練習と経験の積み重ね

現代医学との融合

現代医学との融合

古くから伝わる東洋医学の中でも、脈診は人の体の状態を詳しく探るための大切な方法として知られています。最近では、最新の医療機器でも見つけにくい体の変化を捉えることができるとして、再び注目を集めています。脈の波形を機械で測り、数値として分析する研究も進んでいます。東洋医学と現代医学が手を取り合うことで、より幅広く、一人ひとりに合った医療を実現できる可能性を秘めています。

脈診は、ただ病気を診断するだけでなく、患者と医師との心の繋がりを深める上でも大切な役割を担っています。医師は、脈を診ることで、患者の体の状態だけでなく、心の状態も理解しようと努めます。患者の気持ちに寄り添い、共感することで、患者との間に信頼関係が生まれます。これは、患者を第一に考えた医療にとって、なくてはならないものです。

脈を診る技術は、指先に伝わる繊細な感覚を頼りに、全身をめぐる「気」「血」「水」の流れを読み解く、高度な技術です。東洋医学では、病気は体全体のバランスが崩れた状態だと考えます。脈診は、そのバランスの乱れをいち早く察知し、病気の芽を摘むためにも役立ちます。古くから受け継がれてきた脈診は、現代社会においても、人々の健康を守る上で大切な役割を担っていると言えるでしょう。脈診は、単なる診断方法ではなく、患者とのコミュニケーション、そして信頼関係を築くための大切な手段でもあるのです。

脈診の利点 詳細
早期発見 最新の医療機器でも見つけにくい体の変化を捉えることができる。
病気の芽を摘む。
個別医療への貢献 より幅広く、一人ひとりに合った医療を実現できる可能性を秘めている。
患者との良好な関係構築 患者と医師との心の繋がりを深める。
患者の気持ちに寄り添い、共感することで、患者との間に信頼関係が生まれる。
患者を第一に考えた医療にとって、なくてはならないもの。
患者とのコミュニケーション、そして信頼関係を築くための大切な手段。
東洋医学的視点 全身をめぐる「気」「血」「水」の流れを読み解く。
病気は体全体のバランスが崩れた状態だと考える。
バランスの乱れをいち早く察知する。
現代社会における役割 人々の健康を守る上で大切な役割を担っている。